夜のバス:どこにもない場所

夜のバス

夜の闇を一層際立たせるように明かりを煌々と灯して、バスが路肩に横付けされる。
座席に人影はなく、遠く前の方に運転手がいるばかりだ。
掴まる人の無い吊り革の列も所在無さげに、整然と宙にぶらさがっている。
扉の閉まる「プシュー」っと言うあの独特な音の後、静かに夜へと滑り出す。

いつもの角を曲がった途端に、見慣れない夜の景色がつぎからつぎへと流れて行く。
いったい自分が何処へ向っているのか、ここはどの辺りなのか、走るほどに心細さが増してくる。
知った道でも、昼と夜では全く別の場所のような気がしてくるのだから、
知らない土地であれば、なおさらのことだ。
夜のバスには、どこか知らない場所へと私を運んで行く様な、なんとも心細い風情がある。

それは市内の巡回バスであっても、何処か遠い地へと私を誘って居るように感じるのだ。
その遠い地とは一体どこのことだろう?
それは多分「どこにもない場所」のことだ。ぼんやりとその無い場所を思い浮かべてみる。無い場所を思い浮かべてみることができるというのも、なんだか不思議なことだ。

夜のバスの心細さはきっと、その「どこにもない場所」と繋がっているのではないだろうか。
そして、その「どこにもない場所」への入り口は他にも案外と身近な場所にあるように感じる。
誰も居ない閉店後の夜のスーパーマーケットや、暗がりの中にぽつんと建つ電話ポックスに、
夜のバスや電車、あるいは目的もなく行く空港のロビーに、深夜の高速道路を走るタクシーの中に、
それらは、人々に見過ごされて、いまも日常の影にひっそりと佇んでいるのではないか?

そして、そこは物語やアートやデザインが生み出される場所とも何処かで繋がっている様に思う。

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